天井桟敷からのBLOG
 
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011 医療・・・イレッサ訴訟 (1)・・・! 

いわゆる「イレッサ訴訟」が大変気になります。

「イレッサ訴訟」というのは、肺がん治療薬「イレッサ」の副作用被害を巡り、患者と遺族が国と輸入販売元のアストラゼネカ(大阪市)に損害賠償を求めた訴訟なのですが、がん患者のひとりである自分には、こうした訴訟を起こし賠償を求めるという発想や行為が、なんとも理解しかねるのです。
【註】イレッサは、癌の増殖などに関係する特定の分子を狙い撃ちする分子標的治療薬の一種で、手術不能又は再発した非小細胞肺癌に対する治療薬として用いられています。2002年7月5日、世界に先駆けて日本で承認をされ、その後アメリカをはじめ、アジア諸国、欧州、オーストラリアなど多くの国で承認されています。

《 イレッサ訴訟の概要 》

○ 2004(平成16)年11月25日、東京地裁に提訴(東日本訴訟)
  原告:3患者の遺族(原告数4名)
  訴訟の形態:損害賠償請求訴訟
  請求金額:7700万円
  被告:アストラゼネカ株式会社(本社大阪),国

○ 2004(平成16)年7月15日、大阪地裁に提訴(西日本訴訟)
  原告:3患者の遺族と1生存患者(原告数11名)
  訴訟の形態:損害賠償請求訴訟
  請求金額:1億450万円(死亡患者3300万円,生存患者550万円)
  被告:アストラゼネカ株式会社(本社大阪),国
  
○ 2011年1月7日、東京地裁と大阪地裁は、国とアストラゼネカについて「緊急安全性情報が出された2002年10月15日までにイレッサを投与され、副作用として間質性肺炎を発症した患者らを救済する責任がある」として、和解を勧告。

○ 2011年1月10日、原告団は、京都市内で総会を開き、東京・大阪両地裁による和解勧告を受け入れる方針を決定。

○ 2011年1月24日、アストラゼネカは、和解勧告受け入れを拒否する上申書を両地裁に提出。

○ 2011年1月24日、国立がん研究センターは、和解勧告について、「不可避的な副作用の責任を問う判断は医療の根本を否定する」として批判する見解を発表。同日、日本肺癌(がん)学会、日本臨床腫瘍学会も、同じ趣旨の見解を公表。

○ 2011年1月28日、政府は、和解金の支払いなどを求めたこの和解勧告の拒否を決定。

○ 和解拒否を受けて、大阪地裁は2月25日、東京地裁は3月23日に判決を言い渡すことに。


さて、政府(厚生労働省)が、原告が求めた抗がん剤による副作用被害の救済制度創設などは、具体的検討を始める意向を示しながらも、両地裁の和解勧告について最も問題としたのは、「治験外の副作用報告をもっと慎重に検討し承認すべきだった」と指摘した点です。
病状が悪く治験に参加できない患者に未承認薬を投与する治験外使用の症例をより厳格に審査すべきだとなれば、患者が抗がん剤を使う機会を奪うことになるとしたのです。
【註】治験(ちけん)というのは、医薬品もしくは医療機器の製造販売に関して、薬事法上の承認を 得るために行われる臨床試験のことです。

【参考資料】〔厚生労働省 イレッサ訴訟和解勧告に関する考え方 平成23年1月28日 [pdf]〕

聖路加国際病院内科部長で呼吸器科専門医の蝶名林直彦(ちょうなばやし・なおひこ)氏のインタビュー記事(日経BP社の「21世紀医療フォーラム 良い医者、良い医療を創る」)に賛同を覚えます。

日本肺癌学会の見解は、
(1)イレッサは、上皮成長因子受容体に特定の遺伝子異常を持つ患者に対して、高い有効性を示す。
(2)日本人の肺癌患者の約30~40%程度にこの遺伝子異常が認められる。
(3)一方で、実際の臨床において、イレッサを投与した間の4~6%に間質性肺炎が生じ、その中の40~50%が死亡した。
(4)複数の疫学的調査の結果、間質性肺炎を起こす可能性が高いのは、男性、喫煙者、扁平上皮癌、既存の間質性肺炎を有する患者であり、間質性肺炎によって死亡する可能性が高いのは、呼吸機能低下している場合や全身状態が不良な患者である。(2004年のデータ)
というものです。

いずれの知見も、イレッサ承認後に多数の患者さんに投与した結果、明らかになったことであり、効果が期待できる遺伝子異常を持つ患者さんや、反対に重篤な間質性肺炎が起こる可能性のある患者さんを見分けることは、困難であったといえます。

医薬、特に抗がん剤の新薬では、多くの患者さんに投与されて、初めて解明される事実があることも少なくありません。つまり、新薬として承認されても100%安全であるということではなく、やはりリスクはある。そのリスクをしっかり把握して、患者さんにも理解していただき、その上で使う。これが原則です。

今回の和解勧告で問題だと思うのは、イレッサを投与した後の情報の集積で明らかになった事実から、いわば時間を遡る形で判断し、承認前や承認直後の判断や対応に責任を問うということに無理があるということです。

・・・・・・



2011年2月5日(土)12:49 | トラックバック(0) | コメント(0) | 医療・福祉・教育・労働 | 管理

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